2014年2月23日
「広汎性発達障害」にかかる初診日について
今回は、社会保険審査会の実際の裁決事例をご紹介いたします。
※社会保険審査会とは、年金等の給付の処分や決定に対する不服申立(審査請求といいます)を審査する
行政機関です。障害年金については、支給・不支給の決定や、支給額についての審査請求が主となります。
[請求の経緯]
請求人は、広汎性発達障害による障害の状態にあるとして、社会保険庁長官に対し、事後重症による障害基礎年金の裁定を請求。
この請求に対し社会保険庁長官は、「初診日である平成○○年○月○日の前日において、規定の納付要件を満たしていない」ため、障害基礎年金を支給しない旨の処分をした。
請求人はこの処分を不服とし、審査請求・再審査請求を行った。
広汎性発達障害と知的障害について
まず、広汎性発達障害とはどのようなものなのでしょうか。
広汎性発達障害とは、コミュニケーション能力や社会性に関連する脳の領域に関係する発達障害の総称で、自閉症、アスペルガー症候群などが含まれます。
幼少時から明らかな臨床症状が見られることは稀で、多くの場合、20歳前後の時期に症状が顕著になってくるとされています。
一方、知的障害ですが、障害基礎年金等の年金給付に係る初診日については、「先天性の障害」であるとして「20歳前に初診日があったもの」と取り扱われます。
そして、障害基礎年金において20歳前に初診日があると認められる場合には、例外的に保険料納付要件が問われません。
つまり、広汎性発達障害が知的障害と同様に扱われるかどうかで、保険料納付要件の扱いが大きく変わるのです。
初診日による大きな違い
上記の[請求の経緯]の通り、本件は障害基礎年金が不支給という処分となってしまいました。
それはなぜでしょうか。
本件の請求人は当該傷病が生来性のものであり、20歳前に実際の受診が無くても、知的障害と同じように「20歳前に初診日があったもの」として取り扱われるべきだと主張していました。
提出した診断書も
「傷病の発生年月日:昭和○○年○月○日(生来性)(本人の申立て)」
「そのため初めて医師の診療を受けた日:平成○○年○月○日(診療録で確認)」
とされています。
しかし、本件について社会保険審査会は、
「当該傷病が医学的に先天的要因によるものとされている面があるとしても、初診日に関して知的障害と同列に扱うのは相当ではない」ため、
「具体的な臨床症状あるいは自覚症状が発現し、それが日常生活や社会生活を営む上で障害となり、そのために医師あるいは医療機関を受診した時点をもって、それに係る初診日とする」として、請求人の主張は採用されませんでした。
その結果、診療録により確認された「初めて医師の診療を受けた日:平成○○年○月○日」が初診日とされ、それに基づく保険料納付要件を問われることとなり、要件を満たしていなかったため、障害年金は不支給となってしまったのです。
これはひとつの具体例であり、同じ障害だからといって必ずしも同じ処分を受けるとは限りません。
しかし、障害年金の請求において、初診日の確定がとても重要だということを象徴する案件と言えるでしょう。
障害年金の支給を受けるための3つの要件のうち2つは初診日を基準に問われますし、この裁決事例のように、初診日によって支給・不支給が決まってしまうこともあります。
長い療養生活を送っている場合や転院を繰り返している場合など、初診日を特定することが困難なケースは多々ありますが、諦めずに、着実に確実に初診日を証明する書類を用意して、必要とする給付を受けられるようにすることが大切なのです。